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21話 オリビアの反撃 1

last update Last Updated: 2025-01-06 13:24:46
 いきなり手首を掴まれたメイドは、ギョッとした。

今迄何を言われても言い返しもせず俯いて通り過ぎていた相手だけに、受けた衝撃は計り知れないものだった。

「な、何をするのですか、オリビア様! 離して下さい!」

「それは、こちらの台詞よ。今、あなた達はここの使用人にも関わらず私の悪口を言ったのよ? 一体どういうつもりなの!?」

強い口調でオリビアは2人のメイドを交互に睨みつける。

「ど、どういうつもりって……」

「それは……」

メイド達は口を閉ざす。どういうつもりだと言われても答えようが無い。単にオリビアに嫌がらせしたいだけなのだから。

「……もしかして、シャロンから私に嫌がらせをするように命令されているのかしら?」

「いいえ!」

「それだけは違います!」

オリビアの言葉に必死に首を振る2人のメイド。シャロンはオリビアに嫌がらせをするようにメイド達に指示したことは無い。そのことを知っていたオリビアはあえて、シャロンの名前を口にしたのだ。

「そう。なら私に対する暴言は自分たちの意思だったということなのね?」

「そ、そう……です……」

「私達の意思です……」

観念したかのように俯くメイド。オリビアは未だにメイドの手首を掴んだまま、続ける。

「使用人の立場でありながら、貴族である私にそんな態度を取っていいと思っているの? 確かこの屋敷で働いているメイド達は全員、協会からの紹介状を貰って雇用されているわよね。そこに訴えてもいいのよ? 雇い主の家人に暴言を吐いているって。フォード家の名を出せば、あなた達の立場はどうなると思う?」

「ええ!? そ、そんな!」

「どうか、それだけはお許しください!」

増々メイド達は青ざめる。

「そう。どうしても許して欲しいのなら今すぐ私に謝って、二度と罵詈雑言を吐かないと約束してもらおうかしら?」

オリビアは掴んでいたメイドの手首を放した。

「大変、申し訳ございませんでした!」

「もう二度とこのような真似は致しません! どうかお許しください!」

震えながら、頭を垂れる2人のメイド。

「本当に反省しているのね? 絶対に二度と言わないと誓える?」

「はい! 反省しています!」

「二度と言わないと誓います! だ、だからどうかお許しを……」

協会に目をつけられてしまえば、二度と彼女たちはメイドとして雇用して貰えない可能性がある。

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    —―20時 マックスに見送られ、3人は店を出た。「……大変申し訳ございませんでした」酔い潰れて眠ってしまったアデリーナを背負ったセトが申し訳なさそうに謝ってきた。「そんなに気になさらないで下さい。でも驚きました。あのアデリーナ様がお酒で酔い潰れてしまうとは思いませんでした」オリビアが気持ちよさそうにセトの背中で眠っているアデリーナを見つめる。「何だかすみません。出したワインの度数が強かったのかな?」マックスの言葉にセトは首を振る。「いいえ、アデリーナ様はお酒が強い方なのです。このように酔って眠ってしまったことは一度もありません。アデリーナ様は侯爵家の一員として家族から厳しく育てられてきたので、気の休まることはありませんでした。 ですが、今夜は余程楽しかったのでしょうね。あんなに笑顔で話をしている姿を見るのは初めてです。これもきっとオリビア様のおかげなのでしょうね。本当にありがとうございます」「い、いえ! 私の方こそ楽しかったです。家族に虐げられていた私はすっかり自信を無くしていました。でもアデリーナ様に出会って、私は生まれかわったのです。こちらこそ感謝しています」するとセトは笑顔になる。「アデリーナ様も同じようなことをおっしゃっておられました。これからもどうぞよろしくお願いいたします。では、私はアデリーナ様を連れて帰らなければなりませんので、ここで失礼致します」「はい、分かりました」「またいらしてください」オリビアとマックスは交互に声をかけるとセトは会釈し、アデリーナを背負ったまま夜の町へと消えて行った。その姿を見送りながら、オリビアはマックスに話しかけた。「……ねぇ、マックス。ひょっとするとセトさんはアデリーナ様のこと……」するとマックスは目を丸くする。「何だ? 今頃気付いたのか? 俺は2人が一緒に現れた時から気付いていたぞ?」「え? そうだったの?」「当然じゃないか。俺は接客の仕事をしているんだぞ? 相手の心の内くらい、読み取れなくてどうする」「ええっ!? そんなものなの? ねぇ、だったら今私が何を考えているのか分かる?」「う~ん……そうだな」マックスはじっとオリビアを見つめて答えた。「アデリーナ様って、可愛いところもあるのね? って思っているだろう?」「当たり! すごいわ」「それだけじゃない。まだ分かるぞ

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    3人はマックスの店の前に到着すると、早速オリビアはアデリーナに声をかけた。「アデリーナ様、こちらのお店ですよ」「あら? このお店は……」アデリーナは首を傾げる。「え? もしかして御存知なのですか?」「ええ、一度だけ来たことがあるのよ。でも確かここは喫茶店だと思っていたけど……」「その事なのですけどね。昼と夜とではオーナーが違うんです。夜は食事とお酒を提供するお店になるのですよ」するとアデリーナの目が輝く。「本当? お酒が飲めるのね? 早く入りましょう」「フフ。そうですね、入りましょう」セトが扉を開け、3人は店の中へ入って行った。**店内には多くの客で賑わいを見せている。「まぁ……昼間とは全くお店の雰囲気が違うわね」アデリーナは感心した様子で周囲を見渡した。「そうなのですか? 私は昼間は来たことが一度も無いので良く分からなくて」そのとき。「オリビアッ! 来てくれたんだな!」黒のタキシード姿のマックスが笑顔でやって来た。「ええ。約束通りに来たわ」「オリビア嬢、ご来店頂きありがとうございます」次にマックスはオリビアに丁寧に挨拶をし……じっとセトを見つめる。「え……と、こちらの男性は……?」「初めまして。わたしはアデリーナ様の従者のセトと申します。今夜はアデリーナ様の付き添いで御一緒させていただきました。マックス様、今夜はお招きいただきありがとうございます」「あ……い、いえ。こちらこそありがとうございます。それじゃ、席を案内しますね」丁寧に挨拶され、マックスは目を白黒させながら3人を席へ案内した――**** カウンター席に案内されたオリビアとアデリーナは早速、マックスが勧めた料理を口にしていた。「アデリーナ様。 この魚介のグリル、スパイシーでとても美味しいです!」「そうね。このお肉料理も、とても味が染みていて美味しいわ。ワインにとてもあうわね」アデリーナがワインに手を伸ばすと、セトが止める。「アデリーナ様、またワインをお召し上がりになるのですか? もうこれで3杯目ですよ?」「あら、別にいいじゃない。私がお酒に強いのは、セトが良く知っているでしょう?」「ええ、そうですが外で飲まれるのと、自宅で飲まれるのとは訳が違いますから」「私なら大丈夫よ。それにセト。最初に言ったわよね? 私たちの会話を邪魔しない、空気の

  • 悪女の指南〜媚びるのをやめたら周囲の態度が変わりました   63話 専属従者

    —―18時半「全く、兄のせいで家を出るのが遅くなってしまったわ。今迄散々私を無視してきたくせに……もう放っておいて欲しいわ」自転車をこいで待ち合わせ場所である広場の噴水前に行ってみると、既にアデリーナの姿がみえた。「いけない、もういらしてたのね。……あら? 一緒にいる方はどなたかしら?」アデリーナの傍には黒髪を後ろに束ねた青年がついており、2人は親し気に話をしている。青年はスラリと伸びた長身で、ジャケット姿が良く似合っている。自転車で近付くと、アデリーナがオリビアに気付いて笑顔で手を振ってきた。「オリビアさん! 待っていたわよ」「すみません。私からお誘いしたのに、遅くなってしまいました」自転車を降りると、詫びる。「あら、いいのよ。ほぼ時間通りだから」アデリーナは笑顔で返事をすると、次に黒髪青年に話しかける。「ほら、言った通りでしょう?」「ええ。アデリーナ様の仰る通りでした。疑ってしまい、申し訳ございません」そしてペコリと頭を下げてきた。「あの……一体なんのことでしょうか?」オリビアが首を傾げるとアデリーナが説明した。「彼はね、私の従者でセトというの。今夜、親友と食事に行くと言ったら、どうしてもついて行くと言って聞かなかったのよ。相手がディートリッヒ様では無いかと疑っていたみたいなの」そして少しむくれた様子でセトを睨みつける。「本当に申し訳ございません」再度セトは謝罪すると、次にオリビアに丁寧に挨拶をしてきた。「初めまして。私はセトと申します。アデリーナ様の幼少時代より、執事として10年以上お傍に仕えさせていただいております。どうぞよろしくお願いいたします」「初めまして。私はオリビア・フォードと申します。アデリーナ様とは仲良くさせていただいております」互いに自己紹介しあうと、アデリーナはパチンと手を叩いた。「はい。では自己紹介も終わった事だし、セト。あなたはもう帰っていいわよ」「イヤです」「え? 何を言ってるの。今夜は私はオリビアさんと2人で食事を楽しみたいのよ?  もう疑いも晴れたのだから、帰ってくれないかしら」「いいえ。私は旦那様より、アデリーナ様をお守りするように命じられております。この辺りは夜になると町の顔が変わります。どんな輩がうろついているか分かりませんので、お供させて頂きます」「私は腕に自信があるか

  • 悪女の指南〜媚びるのをやめたら周囲の態度が変わりました   62話 揃いも揃って

     部屋に戻ったオリビアは、早速クローゼットを開けた。「今夜のアデリーナ様との食事にはどんな服がいいかしら……これなんかシックな感じでいいかも」深緑色のボレロワンピースを手に取り、身体にあててみる。「う~ん……それともアデリーナ様の髪色に合わせてワインレッド色のワンピースがいいかしら……」悩んでいると、部屋の扉がノックされた。—―コンコン「……誰かしら? 忙しいのに……」オリビアは扉に向かと声をかけた。「誰?」『俺だ、お兄様のミハエルだ』お兄様という単語にイラッとしながらも、オリビアは扉を開けた。「ごきげんよう、お兄様。一体何の御用でしょうか?」「学校から帰宅したと聞いて話があったから来たんだ。今、少しいいか?」本当は追い返したかったが、わざわざ自分を訪ねて来たのを邪険にするのは気が引けた。「分かりました。……少しなら良いですよ。どうぞお入り下さい」「ありがとう!」大袈裟な程笑みを浮かべたミハエルはズカズカと部屋に入り、ドスンとソファに座って来た。「オリビア、お前も座れ」手招きしてくるのでおとなしく向かい側に座ると、ミハエルは身を乗り出してきた。「早速だが、妹よ。本日、義母と偽物妹が追い出されたのは知ってるか?」「ええ、知っていますよ」「な、何だって!? もう知っているのか!?」身体をのけぞらせて驚くミハエル。「なにもそれほど驚くことでは無いでしょう? 丁度帰宅した時間に屋敷を追い出されるシャロンと義母に会ったのです」「そうだったのか。真っ先にお前に知らせて、喜ぶ顔が見たかったのに……」ミハエルはガックリと肩を落とす。「まさか、それを知らせに来たのですか?」「いや、それだけではない。そこで今夜あの邪魔な母娘を追い出した祝に、家族水入らずで夕食会を開こうと思って知らせに来たのだ。どうだ?」「いいえ、結構です。お父様にも声をかけられましたが、お断りしました」「何だって!? 父から!? 夕食会を考えたのはこの俺だぞ!? あげくに断ったのか? 何故だ!」「何故も何も、今夜は約束があるからです」「約束だって……ん? あれは……」ミハエルの視線がオリビアのクローゼットをとらえた。ベッドの上には先程オリビアが選んだワンピースが置かれている。「出掛ける服を選んでいたのか?」「ええ、そうです。今夜は食事に行く約束をし

  • 悪女の指南〜媚びるのをやめたら周囲の態度が変わりました   61話 愚かな妹

    「え? これは何事?」屋敷へ帰って来たオリビアは目を見開いた。エントランス前には3台の荷馬車が止まっていたからだ。屋敷の中からは使用人達の手によって荷物が運び込まれていく。呆気に取られてその様子を眺めていると、荷物を抱えたトビーが現れてオリビアに気付いた。「あ、お帰りなさいませ。オリビア様」「ただいま、トビー。これは一体何の騒ぎなの? あ、まさか……」その時、オリビエは重要なことを思い出した。「はい、そのまさかです。本日、ゾフィー様とシャロン様がこの屋敷を出て行かれるのです」「ふ~ん。そうだったのね。てっきり、もう出て行ってたと思っていたけど」「いえ、これからですね。でも今日中に出て行くことは間違いないでしょう」ドスンと、荷馬車に荷物を置くトビー。その時、ヒステリックな大声が響き渡った。「ちょっと何するのよ! 乱暴に荷物を置くんじゃないわよ!」2人が振り向くと、怒りの形相を浮かべたシャロンが睨みつけていた。「今の荷物はね、あんたの給料では買えないような高級アクセサリーが沢山入っているのよ!? 傷でもついたらどうしてくれるのよ!」乱暴にズカズカ近付いて来る。「それは申し訳ございませんでした。かなり重たい品物だったので、てっきり本かと思ったものですから。でも……まさか中身は高級アクセサリーだったのですか」「それは一体どういう意味よ! って言うかオリビアッ! 何でそんな目でこっちを見るのよ!」シャロンはビシッとオリビアを指さした。「別に。それよりシャロン。姉の私にお帰りなさいくらい言えないのかしら?」「冗談じゃないわ! 何であんたに挨拶しなくちゃいけないのよ! こっちはねぇ、あんたのせいでもう滅茶苦茶よ! どうして私が修道院なんかに入らないといけないのよ! むしろあんたのように地味な女の方が余程修道院がお似合いよ!」この期に及んでも未だに文句を言ってくるシャロンにオリビアはため息をつく。「シャロン、あなたって本当に愚かなのね?」「な、何が愚かなの!」「修道院にアクセサリーを持って行って良いとでも思っているの?」「え……? もしかして駄目なの!?」「当然じゃない。持って行ったところで持ち物検査をされて、不要な物はその場で即没収よ」すると何故かシャロンが不敵な笑みを浮かべる。「あら、それなら大丈夫。だってアクセサリーは不

  • 悪女の指南〜媚びるのをやめたら周囲の態度が変わりました   60話 撃退

    「アデリーナ様!? どうしてここに!?」するとアデリーナが振り返った。「今日は1日オリビアさんに会えなかったから、ここに来ればきっと会えると思っていたのよ」「私を捜してくれていたのですか? ありがとうございます!」感動のあまり、オリビアの目が潤む。「一体何の真似だ! 俺は今オリビアと話の真っ最中だったんだ! 部外者は黙ってろよ!」あろうことかギスランは、年上でしかも侯爵令嬢のアデリーナにとんでもない口をたたいた。「ギスランッ! アデリーナ様に何て口の利き方をするのよ!」「うるさいっ! オリビアのくせに黙ってろ!」「いいのよ、オリビアさん。私は気にしていないから」アデリーナは言い合いするオリビアを優しく制すると、次にギスランを睨みつけた。「生憎、部外者じゃないわ。彼女は私の大切な親友なのよ。彼女に乱暴な真似をするのは、この私が許さないわ」「何だって……? 女のくせに生意気だな。だったらお前から痛い目に遭わせてやるよ!」ギスランはアデリーナにつかみかかろうとして、逆に悲鳴を上げた。「ギャアッ! い、いってー!」アデリーナはギスランの腕を素早くかいくぐると、右腕を背中にねじり上げていたのだ。「畜生っ! 離せよ! くそっ! こ、こんなの振り解いて…‥イタタタタッ!! 痛い! 頼む、やめくれっ!」ギスランはアデリーナの腕を振り解こうとするも、増々ねじり上げられる。余程痛いのか、その目には涙すら浮かべている。「離して欲しければ、金輪際オリビエさんには近づかないと誓いなさい」更にギスランの腕をねじ上げるアデリーナ。「ひぃ! わ、分かった! 分かりましたっ! お願いです! は、離して下さい……!」ヒィヒィ叫ぶギスランの腕をねじり上げながら、アデリーナはオリビアに尋ねた。「オリビアさん、どうする? こんなことを言ってるけど」「はい、離してあげてください。これ以上耳障りな悲鳴を聞きたくも無いので」「それもそうね?」アデリーナはニコリと笑みを浮かべて手を離すと、ギスランは無様に地面に膝をついた。「ギスランと言ったかしら? オリビアさんに感謝する事ね。約束通り、二度と彼女にまとわりつかないことね。さもなくば……」ジリッとアデリーナがにじり寄る。「ヒッ! はい、勿論です!! 誓います! 二度と近寄らないと誓います!」ギスランは立ち上

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